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Future Talk vol.1 -世界に出汁を-中原水産株式会社


 

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東シナ海に面し、全国でも有数の水揚量を誇る漁港の町・鹿児島県枕崎市。鰹節生産量日本一として知られる地に、中原水産株式会社はあります。

昔に比べ、和食の基本である出汁や醤油、味噌のことを、使い方を含め詳しく知る人は少なくなってきているようです。それもそのはず、フレンチやイタリアン、中華料理など、日本の食卓には和食とほぼ変わらない頻度で数々の世界の美食が登場し、男女とも仕事と家庭に忙しい日々を過ごすなか、和食について詳しく知ること、毎日じっくりと料理に取り組む時間すらも少なくなっている状況です。
そんな時代を冷静に見つめながら、地元・枕崎にとどまらず全国や世界を行脚しながら「出汁教室」を開催されている中原水産株式会社・中原晋司社長。かつては当たり前だった「出汁のとり方」が一つのエンターテイメントとしてとらえられ、国内外の観光客から好評を得られています。今回、美老園園主の森宏子、五代目茶師・森裕之と一緒に対談をさせていただきました。 

(森宏子・森裕之)
本日はお忙しい中ありがとうございます。よろしくお願い致します。

(中原社長)
こちらこそよろしくお願いいたします。

- 中原社長のご活躍はよく新聞などで拝見させていただいております。「出汁教室」など取り組まれていることについてのお考えなどをお伺いできればと思います。


 

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(中原社長)
鰹節の本物のおいしさを手軽に楽しめることをいかに広めていくか、につきます。作るときに自分で削ってから出汁をとる...というやり方が本当は一番おいしいんです。香りが違う。ですが、やはり時代の流れの中で出汁を自らとるご家庭が減ってきている。そこには生産地の者として危機感を感じます。だから、いかに生活の中にとりいれやすくしていくかを私たちは考えていかないといけないと思っています。正直、鰹節の売上は落ちています。本当の出汁のとり方を実演しても、それを見てくださった方の半分も購入されません。ただ、手軽な出汁パックやつゆなどの商品を皆さん購入してくださいます。見てくださる方自身も、削って出汁をとることが本物の味だと知り、おいしいと思ってくださるからこそ、本物の味に近く、かつ手軽に作れる商品を手にとってくださるのだと思います。

 

(茶師・森)
お客様にいかに感動を与えるかということは私たちも課題としています。お茶が育まれてきた歴史、作られた背景、どんな想いで昔の人はお茶を飲んでいたのか。お客様もそういった話を聞いて、実際に味を感じる。だからこそ皆さん、商品に手を伸ばされるのでしょうね。

(中原社長)
鰹節が調味料として使われはじめたのは弥生時代まで遡ると言われています。そこから生産方法に改良が重ねられ、現在まで伝わっている。千年以上も受け継がれてきた日本人の味覚の基礎なんです。3~4年かけておいしい鰹を育んでくれる海があって、数十年かけて腕を磨いてきた鰹節職人がいて、半年以上かけておいしい本枯節を作る。こういった歴史や文化を含めて、「おいしい」と思っていただけているのだと思います。

(茶師・森)
お茶にも同じような歴史があります。千年以上かけて愛されてきた、そこには体によいという実感があり、おいしいという記憶がある。お茶に興味を持ってくださる方の知識欲を少しでも満たしてあげることができればいいなと思っています。

(中原社長)
たとえばお茶でいえば、若い方の中にはペットボトルのお茶の味しか知らないという方もいます。出汁にしてもそう。顆粒の出汁の味しか知らない方がいる。まったく新しい存在としての食べ物を浸透させていくことは困難ですが、そういった意味では、お茶も出汁も、「本物の味とは何か」を伝えていくことに的が絞られていていいと思いますね。

(園主・森)
20数年程前、緑茶のペットボトル商品が誕生したとき、敬遠する茶販売業者もいましたが、私は良いことだと思いました。コーヒー・ジュース・炭酸飲料などが自動販売機やコンビニなどに並んでいる中、お茶がその中に入ること、どんなかたちでも、すべての方がお茶に触れることができるのは素晴らしいことだと。中原社長のおっしゃる通り、日本茶専門店として「本当のお茶の味はこうですよ」と伝えていかなければと。それが私たちの仕事だと思っています。

(中原社長)
私も生産者と消費者のつなぎ役として、本物の出汁の味は何か、便利で手軽な出汁のとり方など、産地の人間だからできることをやりきっていきたいと思います。鹿児島はいろんな食の産地として知られていますが、お茶はそのトップを走っていると思います。情報を発信できる場として日本茶専門店があって、イベントも充実していて。

(茶師・森)
お茶農家の方にも、市場での取引価格の低迷や後継者問題で悩んでいる方もいらっしゃいます。私たち製造者と小売店は、お茶農家の方々に、どういうお茶が消費者に求められているのかをしっかり伝えて、もっと連携を深めていかなければならないと思っています。茶産地にあるというメリットを生かして、小売店のスタッフにも茶園に足を運んでもらい、農家の方々の話を聞いて、どうやってお茶が作られているのか、農家さんの苦労を肌で知ってもらいたい。また、消費者が求めていることは何かを敏感にキャッチでき、それを農家の方々に伝えることのできるスタッフを育てていかなければならないと感じています。そして販売員がお茶の美味しさ・素晴らしさをその背景とともにお客様にもっと伝えられるようにならねばと思っています。

- 海外にも足を運ばれているということですが、現地での反応はいかがでしょうか。


 

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(中原社長)
ここ数年、大きく流れが変わってきていると実感しています。日本だけを見ると、人口減少など、先細りしていくような雰囲気はありますが、一方、日本食に興味のある海外では需要がすごく増えています。数年前、海外で食べるラーメンはあまりおいしいと思うものはありませんでした。ですが、ここ2~3年、ラーメンがすごくおいしくなっている。海外の方が日本で食べた味を知って舌が肥えている、また日本のラーメン専門店の直営店が増えているからだと思います。それに、面白いことに、ランチ代はいまや日本が相対的にどんどん安くなっている気がします。アジアの都市部や欧米では、ランチに1,000円以上は当たり前です。現時点では、海外への鰹節の輸出となると現地の日本人向けの供給が主でしたが、これだけ日本の味が世界に知られている、評価されていることを考えたら、その地の食文化として出汁やお茶が受け入れてもらったときに未来はすごく明るいと感じています。フランスに行ったときに抹茶のカフェがあったり、フランス料理の中に抹茶を取り入れているところもありました。また、お蕎麦を、レモンをしぼったフレンチのソースにつけて食べる...という飲食店もありました。日本人から見るとびっくり仰天ですが、現地の人はそれを蕎麦として提供している。日本の食材が、現地の人の手で自在にアレンジされ、その地の食文化に馴染んでいる。そんな場面を見たときに、希望が見えてきます。出汁パックも、アメリカでは日本の価格の1.5倍で販売しています。それでも「おいしい」とリピートしてくださる方がいらっしゃいます。

(茶師・森)
中原社長のSNSで情報発信や出汁教室などの熱心な活動が実を結ばれているのでしょうね。

(中原社長)
インターネットや物流の発達にはすごく助けられています。また、産地としての強みもありますね。産地の良さは、新鮮な原料が安く手に入ること。それはつまり、一番質の良いものを一番安くお客様に提供できることです。
出汁教室も、ホームページに紹介していますが、それだけで問い合わせがあります。たぶん、出汁教室の事例を詳しく紹介したり、外国語対応までできているところが私たちだけだからでしょう。オンリーワンな活動をすれば、その場所に足を運んでくださる。生産地を知っていただくことが一番うれしいです。

(園主・森)
美老園本店2階には茶室がありますが、このメリットを生かして、これから抹茶を点てる体験などができればと思っています。海外の方もお茶に興味を持ってくださる方がたくさんいらっしゃいます。地元の方も、手軽にお抹茶を体験したいという方もいらっしゃいますので。今後、鹿児島市と枕崎市をつなげる何かもしていきたいですね。

(中原社長)
先日、フランスのボルドーに行ってきました。人口60万人くらい、鹿児島市とだいたい同じ規模です。ボルドーにはワイン館があって、そこではすべてのワインが集約されていて、試飲ができるし購入ができます。そのまわりにはたくさんのシャトー(醸造所)があって、ボルドーを中心にそのシャトーへと観光がつながっている。鹿児島もこれと同じで、ボルドーが鹿児島市だとしたら、それ以外の地域がシャトー。鹿児島を観光しようと思ったらまずは鹿児島市へ行きますよね。そこから枕崎へ道を作るためにも、いつかは情報発信地を鹿児島市内に設けたいと思っています。

(園主・森)
お茶の体験教室などは、来年には本当に進めていきたいと思っています。何かイベントをやっていると思っていただけて、美老園が一つの観光スポットになればと。そのことがお茶の文化の発信となり、鹿児島茶の魅力を伝えられることになれば...。

(中原社長)
枕崎での経験をいうと、現地のいろんな方のご協力があってこそ人が集まるということを実感しました。出汁教室だけでは、枕崎には人は呼べません。鹿児島の焼酎の蔵があり、出汁を使った食事を出してくれるお店があり、出汁教室があり、お茶を学べる教室があること。来てくださる方が楽しめるルートを作ることが肝心だと。それぞれの会社やお店のユニークなところ、オンリーワンな部分を見つけて、どうしたら人が興味を持ってくれるかを考えながら編集していく。たとえば海外の方が来られるときには、私は事前にその国の食文化を調べます。どのようにしたらその国の食文化の中で出汁を楽しんでいただけるのかを提案していくのです。
最近では、「出汁の会社」から「うまみの会社」へ考えをシフトするようになりました。昆布、お茶、鰹節、日本の味覚の根幹にあるすべてのうまみにスポットをあててみようと。そういう風に考えたらまた見えるものが変わってきました。最終的には飲食店のプロデュースができるような。

(茶師・森)
急須で淹れたお茶を国民が一般的に飲むようになったのは実は100年ほどです。その前は煮出してお茶を飲むのも普通でした。抹茶も江戸中期に新しい製造法が開発され、それ以前は今ほどの緑色ではなく、味わいも渋かったと考えられます。お茶の楽しみ方も時代で変わっていくものだと思います。これから受け入れられるお茶の淹れ方は何なのかを考えることがこれから大切だと思います。たとえば海外では急須がありません。そういった方にどういった飲み方を提案するのか...など考えて提案していきたいですね。

(中原社長)
いかに手軽に本物の味を楽しんでいただくかは本当にこれからも追求していきたいですね。ただ、どんなに利益が出なくても、本物の味を伝えていく活動を怠ってはいけないと思っています。私は海外に出張するときも必ず削り器と鰹節を持参し、「本物の味はこれです」と実演するようにしています。それが驚きと感動につながっています。


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(園主・森)
変えてはいけないもの、柔軟に変えていくべきところがありますね。本物の味を追求している人だからこそ、日本茶専門店でわざわざ買ってくださる、そのことを忘れてはいけないと思っています。本物を追求する人に納得していただける品質、味を守っていくこと、それと同時に、お茶を知らない世代の方に対して、お茶の魅力を知っていただくこと。その両輪がこれから重要だと思います。20年前、美老園本店のリニューアルにあたり、お茶を使ったお菓子やソフトクリームを始めました。そしたら、お店に入ったことのない、美老園がお茶屋であることも知らないかわいい高校生のお客様がたくさん来てくださるようになりました。お茶を使ったお菓子も、日本茶専門店として本当の抹茶にこだわって作りました。今も、どら焼きやソフトクリームはたくさんのお客様にご愛顧いただいております。長く愛していただけるために、本物にこだわっていくことが専門店として大切なことだと思います。

(中原社長)
私は、美老園という名前がすばらしいと思います。自然の流れに逆らわず、美しく老いていく一つの生き方のような。とてもポジティブで美しい言葉ですね。

(園主・森)
ありがとうございます。美老園には何十年もご愛顧くださっているお客様がたくさんいらっしゃいます。中には「母が飲んでいたから」と何世代にもわたってご利用してくださっている方もいらっしゃいます。何十年も店舗に立っているスタッフもいますよ(笑)。皆さん、とても素敵な方ばかりです。皆さんと一緒に美老園も一つ一つ美しい年を重ねていきたいと思っています。

- 本日はありがとうございました。

 

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